横浜は元町・中華街から海岸通りを数分行ったところに、
独り言の多いマスターがやっているBARがある。
BARの名前は『図美’S BAR』
今夜もマスターが何やら独り言に酔っています……。
営業自粛で益々暇になった『図美’S BAR』
店の掃除をしながら、マスターはふと、
あるお客の言葉を思い出した。
「マスター何か面白い事ありませんかね〜?」
何か面白い……ねぇ〜
彼も、気分を上げたいんだな〜
そこで調べてみると、面白い事がわかった。
実は、別に何か面白い事を見たり、話を聞かなくても、
口角を上げて笑顔にするだけで、
セロトニンっていう幸せホルモンが出て、
気分も上がってくるんだって。
これだ!マスターは思った。
そして、早速セロテープで口角を上げてみた。
鏡を見ただけで、笑えた。
そんな時だ、お客が入って来た。
「あれ〜、お昼からお店が開いてるから、マスター、
テイクアウトでも始めたのかと思ったよ〜」
と言いながら、以前お客で来た、
マスターの好きな女優さんN.M似の美人!
そして彼女はクスっと笑いながら、
「何それ、腹話術の練習〜?」
とマスターに言った。
鼻の下を伸ばしたマスター、ここは良いところを見せて、
褒めてもらぞ!と思いつつ、
「あれ〜、言葉が、後から出てくるよ〜」とついやってみた。
「えっ?今、同時に聞こえましたよねっ、ねっ?」
彼女の屈託の無い真っ直ぐな言葉が、
一瞬にしてその場の時間を止めた。
静粛が店を包んだ……。
マスターの脳裏に映画『ダイ・ハード』のワンシーンが蘇った。
悪役ハンスの最後、ナガトミ・プラザビルから
地上へ落ちていくシーン。
「えっ、おおっ!ええ〜っ!」と言いたげな
驚きの表情で地上へ落ちて行くあのシーンだ。
そう、盛り上がったマスターのワクワク感も、
ハンスの様に落ちていく……。
その時マスターは、マスクをしておくべきだったと後悔した。
そして、「やっぱり、自分の機嫌は自分で取らねば…」と
ポツリと言った。